なっては村人たちはこわがって、なかなか寄せつけることではあるまい、と巳之助は、一方では安心もしていた。
しかし間もなく、「こんどの村会で、村に電燈を引くかどうかを決めるだげな」という噂《うわさ》をきいたときには、巳之助は脳天に一撃をくらったような気がした。強敵いよいよござんなれ、と思った。
そこで巳之助は黙ってはいられなかった。村の人々の間に、電燈反対の意見をまくしたてた。
「電気というものは、長い線で山の奥からひっぱって来るもんだでのイ、その線をば夜中に狐《きつね》や狸《たぬき》がつたって来て、この近《きん》ぺんの田畠《たはた》を荒らすことはうけあいだね」
こういうばかばかしいことを巳之助は、自分の馴《な》れたしょうばいを守るためにいうのであった。それをいうとき何かうしろめたい気がしたけれども。
村会がすんで、いよいよ岩滑新田《やなべしんでん》の村にも電燈をひくことにきまったと聞かされたときにも、巳之助は脳天に一撃をくらったような気がした。こうたびたび一撃をくらってはたまらない、頭がどうかなってしまう、と思った。
その通りであった。頭がどうかなってしまった。村会のあとで三日
前へ
次へ
全27ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング