ょろんがふたりともやめられないのでした。
ふたりは、こころの中では、ひとつの不安を感じていました。それは、町の子どもにつかまって、いじめられやしないか、ということでした。だから、ふたりはこころをはりつめ、びくびくし、なるべく、子どものいないようなところをえらんでいきました。
同盟書林《どうめいしょりん》という、大きい本屋の前を通りすぎて、すこしいってから、東へはいるせまい路地《ろじ》なかに、克巳の家はありました。そこで、同盟書林《どうめいしょりん》をすぎると、ふたりは、首をがちょうのようにのばして、どんな細い路地《ろじ》ものぞきこみました。道もない、ただ家と家のあいだになっているところまで、のぞきこみました。
そのうちに、杉作が、
「あっ、ここだ。」
と、落とした財布《さいふ》でも見つけたように、さけびました。なるほど、その小路《こうじ》のなかほどに、紅《あか》と白のねじ飴《あめ》の形をした、床屋《とこや》の看板《かんばん》が見えました。――克巳の家は床屋さんでした。
ふたりは、幸運《こううん》のしっぽを、たしかにつかんだ人のように、あわてずに、進んでいきました。竹切れは、ぬいてすてました。重箱《じゅうばこ》は松吉が持ちました。松吉は口の中で、むこうでいうように、おかあさんから教えられてきたことを、復習《ふくしゅう》しました。
店の前までくると、入口のすりガラスの大戸の前には、冬の午後の、かじかんだ日ざしをうけて、ひとつひとつの葉の先に、とげのあるらんの小さい鉢《はち》がふたつおいてありました。らんの根もとには卵《たまご》のからがふせてあって、それに道のほこりがつもって、うそ寒いように見えました。しかし、店の中は、すりガラスでよくは見えませんが、あたたかそうな湯気《ゆげ》がたっています。そこには、やさしいおばさんおじさん、なつかしい克巳がいるのです。
重いガラス戸をあけて中へはいりますと、おじさんがひとり、たたみのしいてあるところに、あおむけにひっくり返って、新聞を読んでいました。こちらの方では、まるい銀の頭を、ぴかぴかにみがきあげられたタオルむしが、ひとりで、ジューン、ジューンと湯気をふいていました。
おじさんは新聞を読みながら、うとうとしていたらしく、しばらくそのままでいましたが、やがて、人のけはいにおどろいて、ガバッと新聞をはねのけ、起きあがり
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