の間からつゞいて長い縁先に腰をおろして、万吉はいつもこの嫁さんを捕えてはいろ/\の事を話しかけるのであった。亭主がいようといまいと、万吉にはさほど苦にはならなかった。
『うちの、かいべつ[#「かいべつ」に傍点]には虫が尠い。』
と、一人言しながら前の一寸した花などを作ってある所に、五つうね[#「うね」に傍点]ばかりのキャベツ[#「キャベツ」に傍点]がある、そのキャベツ[#「キャベツ」に傍点]の上に白い蝶が動いているのを見乍ら、嫁さんの顔をじっと見ていた。嫁さんは、一寸笑ったきり何かの仕事に余念がなかった。万吉は、いつもこんなように別に大した話しという話しもせずに帰って行く。
亭主は、大抵外を出歩いていた。幾分のろま[#「のろま」に傍点]なような亭主は、馬をつれて四五里もある村へ出かけて、馬を交換してみたり、一寸した土地の売買に手出しをしたりして居たが、今度も家の方は嫁さんと老人にまかしたきり、天塩の海岸の方に何の目的もなく出かけて行って、まだ手紙の一本もよこさない。
万吉が凶行を敢てしたのは、その留守である。
其日は、朝早くから万吉が遊びにやって来た。勿論、万吉は最初から殺意が
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