寄進をした。
お昼すぎの二時頃延徳寺のお寺さんは来た。噂ではこのお寺さんは、学問があるけれども、非常に、やまし[#「やまし」に傍点]気のある人だという事であった。お寺さんは三十七八の頭の長い人で、顔中、細かい皺がよっていながら、つやつやしたいゝ色の膚の人であった。
お寺さんのお経が終わってその夕方葬式をすませた。村のせまい墓所に四つの新らしい墓標が加った。
延徳寺までは六里もあるので、其夜お寺さんは、此の家に泊った。新開地のことなのでいろ/\の人が集まって、お寺さんを囲んでさま/″\仏様の話し等をした。お寺さんは、こんなことを云った。
丁度、一昨夜の十二時頃、大変ひどい音がして寝られなかったので、朝早く御堂に行って見ると、御堂の前の畳が二畳敷ほどの大きさ一ぱいに、生々しい血がひろがっていたと云った。聞いてた人々は、
『嫁さんがお寺まいりを、したい/\と云って一度もお詣りが出来なかったので、きっと嫁さんのたまし[#「たまし」に傍点](魂)が知らせに行ったのだ。』
と云って、しみ/″\した顔付をした。
楯井さんは、嫁さんの亭主が帰って来るまで、丁度五日の間この淋しい家に留守をしていた。亭主は帰って来ても、別に悲しんだ様子もなかったが、当座一週間ばかりは、毎日々々墓参りをしていた。
三
楯井さんは、六日目で再び自分の開墾地の堀立小屋に帰った。楯井さんは、あのお寺さんの話しを道々気にしながら、不思議な事もあるものだと考えていた。
楯井さんは、開墾地に帰って来ても、別にあの惨虐な物語りを口にしなかった。けれども楯井さんは心の中で様々なことを考えていた。しかし、気の早いせっかちな楯井さんのおかみ[#「おかみ」に傍点]さんは、やはり女だけにその話しを待ちかまえていたように楯井さんを迎えたのであった。そして、無理矢理夫からその話しを少しでも聞きとっては、思出したように涙を流した。楯井さんは、重々しい調子で妻の問に対して答えるとすぐ口を閉じて、自分の考えたことや思出したことなどは少しも云わなかった。
『一番可哀想なのは、おなか[#「おなか」に傍点]さん(嫁さんの名)と赤《あか》(赤ん坊)だ。あんないゝ嫁さんもないもんだ。』
と、おかみ[#「おかみ」に傍点]さんは、自分が四ヶ月も世話になって、いやな顔どころか、何から何につけて気がきいて親切にめんどう見
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