ら消えて行った。
産婆は、ほっと息をついてあはてゝ帰り仕度を初めた。そして明朝早く来ると云ひおいて、やせた髪の毛の少ない彼女もまた戸口から消え去ってしまった。
部屋のなかは急につめたく澄んで来た。もはや夜中だ。疲れ切って、魂を奪はれてしまったやうな彼女がうすく膜のかゝったやうな瞳を上むけてゐた。そして不安と気づかいと恐れと驚きと、すべての肉体の疲労との為めに頭が煙りのやうになって茫然と男は立ちつくした。面を伏せて見たならばあのあはれな赤黒い小さな生き物も、かすかなため息をもらしてゐるだらう。
彼女は、うとうとと眠りにおちて行った。
やがて男は、赤ん坊の傍に彼の床をならべて敷いた。
そして彼は床のなかに静かにすべり込んだが、彼の瞳はなかなかとじられなかった。そして彼にはたへず赤ん坊の糸のやうな、細いかすかな泣き声が耳についてはなれなかった。赤ん坊は度々小さなそして、かすかな泣き声をわずかばかり立てた。男はまた幾度となく静かに赤ん坊の顔をのぞき込んだ。
小さなあはれな生き物は、なんといふ悲しい物あはれな息をしてゐるのだらう。本当に物あはれなかなしい、彼の瞳は涙にくもらうとして来
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