かなしみの日より
素木しづ

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)淡黄色《うすきいろ》い光りが

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)只|茫然《ぼんやり》と

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)後《のち》のもの[#「のもの」に傍点]が

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ひえ/″\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 彼女は、遠くの方でしたやうな、細い糸のやうな赤ん坊の泣き声を、ふと耳にしてうつゝのやうに瞳を開けた。もはや部屋のなかには電気がついてゝ戸は立てられてあった、そして淡黄色《うすきいろ》い光りが茫然《ぼんやり》と部屋の中程を浮かさるゝやうになって見えた。
『一寸もお苦しくは御座いませんか。気が遠くなるやうじゃ御座いませんか。』
 彼女の瞳がうっすらと開いたのを見て、色の黒い目っかちのやうな産婆がすぐ声をかけた。彼女はなんにも見なかった。そしてその声ばかりを耳元で静かに聞いた。
『いゝえ、一寸も苦しくないの。それはいゝ気持。』
 そして彼女は夢のなかで一人ごとを
次へ
全17ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング