ら帰って行ったが)昔と少しも変る所が無い。ただ違うのは、之を取巻いて囃《はや》し応援し批評する観衆の中に、ハモニカを持った二人の現代風な青年の交っていたことである。二人とも、最近コロールの町に出て購《もと》めたに違いない・揃いの・真青な新しいワイシャツを着込み、縮れた髪に香油《ポマード》をべっとりと塗り付けて、足こそ跣足《はだし》ながら、仲々ハイカラないでたち[#「いでたち」に傍点]である。彼等は、活劇の伴奏のつもりなのであろうか、如何にも気取ったポーズで首を振り足踏をしながら、此の烈しい執拗な闘争の間じゅう、ずっと軽快なマーチを吹き続けていた。



底本:「中島敦全集 2」ちくま文庫、筑摩書房
   1993(平成5)年3月24日第1刷発行
   2003(平成15)年3月20日第6刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年8月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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