か味方か、いずれかだ。その方が遥かに健全な状態だ。此の温帯地の・色彩の褪《あ》せた幽霊然たる風景と比べる時、我がヴァイリマの森の、何という美しさ! 我が・風吹く家の、何たる輝かしさ!
此の地に隠退している、ニュージーランドの父、サー・ジョージ・グレイに会った。政治家嫌いの私が彼に面会を求めたのは、彼が人間であることを――マオリ族に最も博大な人間愛を注いだ人間であることを信じたからだ。会って見ると、果して立派な老人だった。彼は実に良く土人を――その微妙な生活感情に至る迄、知っている。彼は真にマオリ人の身になって、彼等のことを考えてやった。植民地総督として全く異例のことだ。彼は、マオリ人に英人と同等の政治上の権力を与え、土人代議士の選出を認めた。そのため白人移民に欣《よろこ》ばれず、職を辞したのである。しかし、彼の斯うした努力のお蔭で、ニュージーランドは今最も理想的な植民地になっているのだ。私は彼に、サモアで自分のしたこと、しようと欲したこと、其の政治的自由に就いては自分の力の及ぶ所でないとするも兎に角、土人の将来の生活、その幸福の為に今後も尽くそうとしていること等を語った。老人は一々共鳴し、激励して呉れた。曰《いわ》く、「決して絶望するものではない。私は、如何なる場合にも絶望が無用であることを真に悟る迄長生した少数者の一人なのだ。」と。自分も大分元気になった。俗悪を知り尽くして、尚、高きものを失わない人間は、貴ばれねばならぬ。
木の葉一枚をとって見ても、サモアの脂ぎった盛上るような強い緑色と違って、此処のは、まるで生気のない・薄れかかったような色に見える。肋膜《ろくまく》が治り次第、早く、あの・空中に何時も緑金の微粒子が光り震えているような・輝かしい島へ帰りたい。文明世界の大都市の中では窒息しそうだ。騒音の煩わしさ! 金属のぶつかり合う硬い機械の音の、いらだたしさ!
四月×日
濠洲《ごうしゅう》行以来の私とファニイとの病気も漸《ようや》く治った。
此の朝の快さ。空の色の美しさ、深さ、新しさ。今、大いなる沈黙は、ただ遠く太平洋の呟きによって破られるのみ。
小旅行と引続いて病気をしている間に、島の政治情勢はひどく急迫して来ている。政府側のマターファ或いは叛乱者側に対する挑戦的態度が目立って来た。土人の所有せる武器を凡《すべ》て取上げることになるだろうという。
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