しそうもない其の特殊な狭い約束の下に於てのみ、優越を誇っているように見える。之は白人種の世界の外にいる者でなければ判らない。勿論、このことは文学にだけ限るのではない。人間や生活やの評価の上にも、西欧文明は、或る特殊な標準《めやす》を作上げ、それを絶対普遍のものと信じている。そういう限られた評価法しか知らない奴に、太平洋の土着民の人格の美点や、その生活の良さなど、てんで解りっこないのだ。

十一月××日
 南海の島から島へと渡り歩く白人行商人の中には、極く稀《まれ》に(勿論、大部分は我利我利の奸譎《かんけつ》な商人ばかりだが)次の二つの型の人間を見出すことがある。その一つは、小金を溜《た》めて、故郷《くに》へ帰り余生を安楽に暮らそうというような量見(之が普通の南洋行商人の目的だ)を全然持合せず、唯、南海の風光、生活、気候、航海を愛し、南海を離れたくないがためにのみ、今の商売を止めないといった様な人間。第二は、南海と放浪とを愛する点では同様だが、之はずっと拗《す》ねた烈しい行き方で、文明社会を故意に白眼視し、いわば、生きながら骨を南海の風雨に曝《さら》しているとでもいった虚無的な人間。
 今日、街の酒場で、この第二の型の人間の一人に出遭った。四十歳前後の男で、私の隣の卓子《テーブル》で独り飲んでいたのだ。(足を組んだ膝頭の辺をがくがく顫《ふる》わせながら。)服装《みなり》はひどいが、顔立は鋭く知的である。目の赤く濁っているのは明らかに酒のせいだが、荒れた皮膚に脣《くちびる》だけいやに紅いのは少々気持が悪い。僅か一時間足らずの会話だったが、此の男が英国一流の大学を出ていることだけは確かに分った。こんな港町には珍しい・完全な英語である。雑貨行商人だといい、トンガから来たが、次の船でトケラウスヘ渡るという。(彼は勿論、私が誰であるかを知りはしない。)商売のことは何もしゃべらない。島々に白人の移入した悪質の病気のことを少し話した。それから、自分には何もないこと。妻も、子も、家も、健康も、希望も。何が彼をこんな生活へ入らせたか、という私の愚問に就いては、何といって名指せるような、小説めいた原因なんかありませんよ。それに、こんな[#「こんな」に傍点]生活とおっしゃるが、今の生活だって、そう特殊なものでもないでしょう? 人間という形態をとって生れて来たという一層特殊な事情に比べればね
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