こ》ヘ来た頃、召使の給料を六|志《シリング》減じたら、其の男は直ぐに仕事を止めた。しかし、今では、彼等は私を酋長と見做《みな》しているらしい。給金を減らされたのは、ティアという老人で、サモア料理(召使達の為の)のコックだが、実に完璧《かんぺき》といっていい位見事な風貌の持主だ。昔、南海に武名を轟《とどろ》かしたサモア戦士の典型と思われる体躯《たいく》と容貌だ。しかも、之が、箸《はし》にも棒にもかからない山師であろうとは!

十二月×日
 快晴、恐ろしく暑い。監獄の酋長達に招かれ、午後、灼《や》けるような四|哩《マイル》半を騎乗、獄中の宴に赴く。先日の返礼の意味か? 彼等は自分達のウラ[#「ウラ」に傍点](深紅の種子を沢山緒に通した頸飾)を外して私の頸に掛けて呉れ、「我等の唯一の友」と私を呼ぶ。獄中のものとしては頗《すこぶ》る自由な盛んな宴であった。花筵《タパ》十三枚、団扇《うちわ》三十枚、豚五頭、魚類の山、タロ芋の更に大きな山を、土産《みやげ》として貰う。とても持ちきれないから、と断ると、彼等の曰《いわ》く、「いや、是非、之等のものを積んでラウペパ王の家の前を通って帰って下さい。屹度《きっと》、王が嫉妬《やきもち》をやくから。」と。私の頸に掛けたウラ[#「ウラ」に傍点]も、元々ラウペパの欲しがっていたものだそうだ。王へのあてつけ[#「あてつけ」に傍点]が囚人酋長等の目的の一つなのだ。贈物の山を車に積み、紅い頸飾りを着け、馬に跨《また》がって、サーカスの行列宜しく、私はアピアの街の群集の驚嘆の中を悠々と帰った。王の家の前をも通ったが、果して、彼が嫉妬《しっと》を覚えたか、どうか。

十二月×日
 難航の「退潮《エッブ・タイド》」やっと終る。悪作?
 近頃引続いてモンテエニュの第二巻を読んでいる。曾《かつ》て二十歳《はたち》前に、文体習得の目的を以て此の本を読んだことがあるのだから、全く呆れたものだ。あの頃、此の本の何が私に判ったろう?
 斯《こ》うしたどえらい[#「どえらい」に傍点]書物を読んだ後では、どんな作家も子供に見えて、読む気がしなくなる。それは事実だ。しかし、それでも尚、私は、小説が書物の中で最上(或いは最強)のものであることを疑わない。読者にのりうつり、其の魂を奪い、其の血となり肉と化して完全に吸収され尽すのは、小説の他にない。他の書物にあっては、何かしら
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