》じのぼると、背中に負って来た棒や板や蓆《むしろ》などを、その枝と枝との間に打付けて、忽《たちま》ち其処に即製の桟敷《さじき》をこしらえ上げて了った。地面から四米ぐらいの高さだったろう。その中へ藁《わら》を敷詰めて、そこで私達は待つのだ。虎は往きに通った途《みち》を必ず帰りにも通るという。だから、その松の枝の間にそうして待っていて虎の帰りを迎え撃とうというのだ。三本の曲った太い枝の間に張られた其の藁敷の桟敷は案外広くて、前に言った私達四人の他に、二人の猟師もそこへはいることが出来た。私はそこへ上った時、もう、少くとも後から跳びかかられる心配はなくなったと考えて、ほっ[#「ほっ」に傍点]とした。私達が上ってしまうと、勢子達は犬を連れ、各々銃を肩に、松明《たいまつ》の用意をして、何処《どこ》か林の奥に消えて了った。
 時は次第に経《た》つ。雪の白さで土地の上はかなり明るく見える。私達の眼の下は五十坪ほどの空地で、その周囲にはずっと疎らな林が続いている。葉の落ちていないのは、私達ののぼっている木と、その隣の松の外には余り見当らないようだ。その裸木の幹が白い地上に黒々と交錯して見える。時々大き
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