と歩いて行った。気がついて見ると、私は何時の間にか趙の銃を(砂の上に倒れていたのを拾って)彼の代りに担《にな》っていた。趙は手袋をはめた両手をだらりと垂らして下を向いて歩いて行ったが、その時、ポツンと――やはり顔を俯せたままで、こんなことを言出した。彼はまだ泣いていたので、その声も嗚咽《おえつ》のために時々とぎれるのであったが、彼は言った。あたかも私を咎《とが》めるような調子で。
――どういうことなんだろうなあ。一体、強いとか、弱いとか、いうことは。――
言葉があまり簡単なため、彼の言おうとしていることがハッキリ解らなかったが、その調子が私を打った。ふだんの彼らしい所は微塵《みじん》も出ていなかった。
――俺はね、(と、そこで一度彼は子供のように泣きじゃくって)俺はね、あんな奴等に殴られたって、殴られることなんか負けたとは思いやしないんだよ。ほんとうに。それなのに、やっぱり(ここでもう一度すすり上げて)やっぱり俺はくやしいんだ。それで、くやしいくせに向って行けないんだ。怖《こわ》くって向って行けないんだ。――
ここ迄言って言葉を切った時、私は、ここで彼がもう一度大声で泣出すので
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