張つた。例の長老が、憎い仇の大腿骨を右手に、骨に付いた肉を旨さうにしやぶつた。しやぶり終つてから骨を遠くへ抛《はふ》ると、水音がし、骨は湖に沈んで行つた。
ホメロスと呼ばれた盲人《めくら》のマエオニデェスが、あの美しい歌ども[#「ども」に傍点]を唱ひ出すよりずつと以前に、斯うして一人の詩人が喰はれて了つたことを、誰も知らない。
底本:「中島敦全集 第一巻」筑摩書房
1976(昭和51)年3月15日発行
入力:圭
校正:木本敦子
1999年9月3日公開
2004年2月4日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング