Kの方へ來てゐるといふ。そんな惡少年は島の内で制裁すればいいと思はれるのに、それがどうして、島の成人《おとな》達が逆に怯《おび》えてゐる有樣なのださうだ。S島は人口も極めて少く、それも年々減少しつゝある、謂はば廢島に近い島なのだが、僅か十五六歳の少年一人を抑へかねる程、住民等も元氣が無いのであらうか。
私と今話してゐる警察官がナポレオンを召捕りに[#「ナポレオンを召捕りに」に傍点]來たのは、此の少年に改悛の情無しと見たパラオ支廳の警務課が、彼の流刑の期間を延長し、その上流竄地をS島よりも更に南方遙か隔たつたT島に變更することに決めたためである。警官は、此の用件と、もう一つ僻遠諸離島の人頭税取立てとを兼ねて、一人の島民巡警を引連れ、内地人の乘ることなど殆ど無い・そして年に僅か三囘位しか通はない此の離島航路の小船に乘つたのであつた。
「ナポレオン先生、大人しく此の船に乘せられて、T島に移りますかな?」と私が言ふと、「なあに、いくら惡《わる》だと云つたつて、たかが島民の子供ぢやないですか。問題ぢやない」と警官がむき[#「むき」に傍点]になつて答へた。其の聲に、今迄の會話の調子と違つて、意外
前へ
次へ
全80ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング