唐ナ、鳶足に坐つた膝の上に赤ん坊を抱いてゐる。赤ん坊はひどく小さい。生れて二月にもなるまい。睡りながら乳首をくはへてゐる。吸つてゐる樣子は無い。びつくりしたのと、言葉が不自由なのとで、私は、勝手に留守宅に休ませて貰つた斷《ことわ》りを言ひそびれ、默つて女の顏を見てゐた。こんなに眼を外らさない女は無い。殆ど目を据ゑてゐると言つても宜い。熱病めいた異常なもの迄が、其の眼の光の中に漂つてゐるやうである。少々氣味が惡くなつて來た。
 私が逃出さなかつたのは、女の目付の中に異常なものはあつても兇暴なものが見えなかつたからである。いや、まだもう一つ、さうやつて無言で向ひ合つてゐる中に次第に微かながらエロティッシュな興味が生じて來たからでもあつた。實際、その若い細君は美人といつて良かつた。パラオ女には珍しく緊つた顏立で、恐らく内地人との混血なのではなからうか。顏の色も、例の黒光りするやつ[#「やつ」に傍点]ではなくて、艶を消したやうな淺黒さである。何處にも黥《いれずみ》の見えないのは、其の女がまだ若くて、日本の公學校教育を受けて來たためであらう。右の手で膝の兒を抑へ、左の手は斜め後《うしろ》に竹の床
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