ものも私の運命を変えることはできないのです。私の来歴をお聞きください。そしたら、それかどんなに取りかえしのつかぬように決定されているかが、おわかりでしょうから。」
そこでその人は、明日からおひまな時に物語を始めようと言いました。この約束に、僕は厚く厚く感謝しました。毎晩、どうしても手ばなせない仕事がある時のほかは、この人が昼間話したことをできるだけそのことばのままに記録しようと決心しました。用事で忙しければ、すくなくとも覚え書きを取っておこうとおもいます。この原稿にはずいぶん、あなたもお喜びになるにちがいありませんが、この人を知り、この人自身の口からそれを聞く身にとっては、将来いつか、どんな興味と同感をもってそれを読むことだろうとおもいます。僕か日課を始める今でさえ、音吐朗々たるその声が耳にひびき、そのうるおいのある眼がけだるい甘美さを帯びて僕を見ています。魂の内部から輝いた顔をして元気よく手をあげるのが見えるのです。この物語は、世にもふしぎな、そして人の心を傷つけるものにちがいありません。雄々しい船をついに押し包んて難破させたあらしのすさまじさ――それはこうして!
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