在をもっているもので、不幸に悩み、失意にうちのめされることはあるかもしれませんが、自分の心のなかに沈潜すると、まわりに円光を背負った天の精霊のようになり、その環のなかへは悲しみも愚かさも入りこんでみようとはしません。
 この神聖な見知らぬ人に対する僕ののぼせかたをお笑いになるでしょうね。けれども、御自分でお会いになれば、お笑いにはならないはずです。あなたは、本や隠遁生活で仕込まれて洗煉されたので、選り好みがなかなかやかましいわけですが、それでも、しかし、この驚歎すべき人物の非凡な価値を正しく評価するにはまだ足りないでしょう。この人は、つね日ごろ僕の知っているほかの誰とも比べられないくらい、この人を高く引き上げる特質をもっていますが、僕はときどき、それを見つけようと努めました。それは、直観的な洞察力、すばやくはあるがあやまちのない判断の力、物事の原因に溯って貫きはいる力、またこれに附け加えて云えば、楽々とした表現、そのいろいろな抑揚が魂のなかから和らげられた苦楽であるような声、などであるとおもいます。

[#地から2字上げ]一七××年八月十九日
 昨日、この見知らぬ人は私に言いました、―
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