然の元素を処理しないのだろう。人間の決心や決意を何が中止できるのだろう。
 僕の膨れた胸は、思わず知らず、こんなふうに溢れ出します。けれども私は、やり遂げなくてはなりません。御多祥を祈ります。
[#地から2字上げ]R・W・

     ウォルトンの手紙(第四)
            イングランドなるサヴィル夫人に

[#地から2字上げ]一七××年八月五日
 たいへんおかしなことがもちあがったので、それを書き記さないわけにいきません。もっとも、この書きものがあなたの手に入らないうちに、どうやらお目にかかれそうですが。
 この前の月曜日(七月三十一日)、僕らは、氷にすっかり閉されそうになりました。氷が四方八方から船に迫り、操船余地も残らないくらいになったのです。殊に、ひどく濃い霧に包まれていたので、僕らの状態はかなり危険でした。そこで、大気と天候に何か変化が起るのを望んで、停船しました。
 二時ごろ、霧がはれてみると、どちらを向いてもはてしのない、広い、でこぼこの氷の平原が、まわりによこたわっていました。仲間のなかには、うめき声を立てる者もあり、僕自身も心配になって、用心する気もちになり
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