貫流する河から立ちのぼってむこう側の山々に太い花環のように巻きつき、その山々の頂は一様に雲のなかに隠れ、雨が暗い空から降りそそいで、私のまわりのものから受ける憂欝な印象をよけい憂欝にした。ああ、どうして人間は、動物よりも感受性の強いことを誇るのだろう。それはただ、人間をもっと宿命的なものにするだけだ。私たちの衝動が、飢え、渇き、情慾などに限られているとしたら、私たちの衝動はほとんど自由であろうが、いま私たちは、どこから吹く風にも、ふとしたことばにも、あるいは、そのことばが私たちに伝える場面にも、動かされるのだ。

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われわれは休む。夢は眠りを毒する力をもつ。
われわれは起きる、一つのさまよう考えが昼を汚す。
われわれは感じる、思いつく、推論する、笑ったり泣いたりする。
つまらぬ悲しみにくよくよしたり、注意を棄ててしまったりする。
それは同じことだ。なぜなら、喜びであろうと悲しみであろうと、
それの離れ去る道は、いまだに自由であるからだ。
人の昨日は明日と同じではないかもしれない。
無常のほかに永続きするものはどこにもない!
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