与えてくれるものに感謝を捧げた。


    10[#「10」は縦中横] 怪物とのめぐりあい


 つぎの日は谿じゅうをさまよって暮らした。ひとつの氷河から出ているアルヴェイロンの水源のほとりに立ったが、この氷河は、山脈の頂上からゆっくりとずり落ちてきて、谷間を塞いでいるのだった。巨大な山の切り立った面が、私の前にあり、氷河の氷の壁が私に覆いかぶさるように立っていた。わずかばかりのひしげたような松の木が、あちこちに立っていた。帝王なる大自然のこういった赫々たる謁見室にあって、その粛然たる沈黙を破るものはただ、雪崩の雷のような音とか、積った氷の山々に沿うて反響する破裂の音だけであった。この氷の山は、不朽の法則のもの言わぬ作用によって、まるで手なぐさみでしかないように、おりおり裂いたりちぎったりされるのであった。こういう荘厳で雄大な情景が、私の受けうる最大の慰めを与えてくれた。それらは、私をいっさいのつまらぬ感情から引き上げ、私の悲しみをなくしはしなかったものの、それを弱め、鎮めてくれた。それらはまた、ある程度、この一箇月ほどくよくよ考えこんでいた状態から、気を晴ればれとさせてもくれた。夜
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