願った。しかし、そんなことはできなかった。苛責の念があらゆる希望を絶やしてしまったのだ。私は取り消すことのできない禍の作者で、この私の創造した怪物が何か新しい悪事をしでかしはしないかとおもって、毎日びくびくして暮らした。私は、すべてはまだ終ったのではなくて、あいつの、過去の憶い出をほとんど抹消する目をみはるような罪を、まだまだ犯すにちがいない[#「ちがいない」は底本では「ちがい」]、ということを、ぼんやり感じていた。私の愛するものが何か背後に残っているかぎり、つねに恐怖の余地があったのだ。この悪鬼に対する私の嫌悪感は、言い表わすことができない。そいつのことを考えると、歯がぎりぎりとなり、眼がひとりでに燃え立ち、私があさはかにも与えたその生命を断ち切ってしまうことをしんけんに願った。そいつの犯罪と敵意を考えると、私は、憎悪と復讐の念を抑えきれずに爆発させた。そこでそいつを谿底目がけてまっさきに突き落すことができるなら、アンデス山脈の最高峯までも出かけて行きたかった。そいつの頭にありったけの憎悪を叩きつけ、ウィリアムとジュスチーヌの死に復讐するために、もう一度、そいつに出会いたかった。
 
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