判官を動かして聖者のような被害者を無実の罪から救うことができかねた。私の熱情的な憤激した控訴も、裁判官には利き目がなかった。そして、そのつめたい答を受け、苛酷な無感情の推論を聞くと、そのつもりでいた私の自白も、私の口もとに凍りついてしまった。こうして、私が自分を狂人だと宣言することにはなっても、私のみじめな犠牲に下された判決を取り消すことにはならない。ジュスチーヌは人殺しとして絞首台の上で死んだのだ!
 私は、自分の心の苦しみから眼を移して、エリザベートの深刻な声なき慟哭を考えてみた。これも私のしたことだった! また父の悩みも、最近まで笑いにみちていた家庭のさびしさも――みんな私の呪いに呪われた手のしわざだった! あなたがたは泣く、不しあわせな人たちよ、けれども、これがあなたがたの最後の涙ではないのだ! 葬いの慟哭はふたたび起り、あなたがたの哀傷の声は幾度となく人の耳を打つだろう! あなたがたの息子、血のつながる者、むかしたいへん愛された友人であるフランケンシュタイン。この男は あなたがたのために、生血の一滴一滴を使いはたしたいのだ。――この男は、あなたがたのなつかしい顔色にも映るので
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