んだ男で、しきりに栄誉を望んでいます。というよりは、もっと特徴づけて言えば、自分の職業の地位が上るのを願っています。この男はイギリス人ですが、教養では和らげられぬ国民的職業的偏見のさなかで、人間性のもっとも高貴な資性をあまり失っていません。はじめ捕鯨船の甲板上で知りあい、この町で失業しているのを見つけて、さっそく僕の計画を助けてもらおうとおもって雇ったわけです。
 特長も気性のすぐれた男で、気のやさしいことと紀律のきびしくないことで、船のなかでも目立っています。この男の誰でも知っている廉直さや恐れを知らぬ勇気にかてて加えて、こういう事情があったので、どうしてもこの男を雇いたくなったのです。孤独に過ぎた僕の年少時代、あなたのやさしくて女らしい養育のもとに送った僕のいちばんよかった時代が、僕の性格の骨組を洗煉しましたので、僕は、船のなかでふつうおこなわれる蛮行に対して烈しい嫌悪を抑えることができません。そんな必要があるとは信じられないのです。そこで、この船乗りが、思いやりの心があって誰からも注目され、乗組員から尊敬され心服されているということを耳にすると、この男に手もとで働いてもらうことが
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