学校友だちルイス・マノアールは、クレルヴァルがジュネーヴを離れてから後、いろいろ不しあわせな目に会いました。けれども、もう元気を取り戻して、とても陽気な美しいフランス婦人マダム・タウェルニエと、結婚なさる目あてでいらっしゃるという話です。その方は未亡人で、マノアールよりずっと年上ですけど、たいへん人に尊敬されていて、誰にでも人気があります。
なつかしいヴィクトル、こうして書いているうちは元気でしたが、書き終えるとまたふたたび不安になってまいります。手紙をください、ヴィクトル。――一行でも――一語でも、私たちにはありがたいのです。アンリの御親切、御厚情、再三のお手紙には、お礼のことばもこざいません。衷心から感謝いたします。さよなら! ヴィクトル、お体には気をつけて。お願いですからお手紙をください!
[#地から2字上げ]エリザベート・ラヴェンザ
[#地から1字上げ]ジュネーヴ、一七××年三月十八日」
この手紙を読んで私は叫んだ、「なつかしい、なつかしいエリザベート! さっそく手紙を書いて、みんなの感じている不安を一掃してあげなくちゃ……。」私は手紙を書いたが、ほねがおれてひどく疲れた。けれども私は、快方に向って順調に進んだ。二週間ほど経つと部屋の外に出ることができた。
治ってから最初にやらなければならなかったことは、クレルヴァルを、大学の教授数人に紹介することであった。それをしたのはいいが、そのために私は、ひどい目にあって、精神的に蒙った傷に負けない苦しみをおぼえた。自分の研究の終りであってまた不幸の始まりであったあの運命の夜からこのかた、私は、自然哲学という名に対してさえ激しい反感を抱いていたのだ。こうして、そのほかのことではすっかり健康を取り戻したのに、化学的装置を見ると、神経的な苦悶の症状が甦ってきた。アンリはこれを見て、私の眼につかない所へ器具頼をかたずけてしまい、アパートメントも変えてしまった。前に実験室にしていた部屋を嫌っているのを看て取ったからだ。しかし、こうしたクレルヴァルの心づかいも、教授たちを訪問するやいなや水泡に帰してしまった。ヴァルトマン氏が、親切な暖かい心で、私が驚くほど科学において進歩したことをほめたが、それが私を苦しめたのだ。教授はすぐ、私がその問題を嫌っているのに気がついたが、ほんとうの原因の察しがつかず、私が遠慮しているのだと考え
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