る美しい樫の老木から、とつぜん炎が噴き出るのが見えたが、眼のくらむようなその光が消えるか消えないうちに、樫の木がなくなっており、枯れた切り株が残っているだけであった。翌朝そこへ行ってみると、その木がへんなぐあいに打ち砕かれていた。それは、衝撃で裂けたというよりは、まるい木製の細いリボンのようなものになってしまっていた。私はこれほど完全に破壊されたものを見たことがない。
 この時まで私は、すでに明らかになっていた電気の法則を知らなかった。このときたまたま、自然哲学を大いに研究した人がいっしょに居たが、この災害に刺戟されて、電気や流電気の問題について、自分でつくりあげた理論を説明してくれたが、それは私には、新しくて、しかもびっくりするようなことであった。この人が言ったことで、コルネリウス・アグリッパ、アルベルツス・マグヌス、パラケルススなど、私の想像の君主たちは、ずっと蔭のほうに投げこまれ、こうして何かの宿命によって、こういう人たちがうっちゃられてしまったため、私は、例の研究を続けることに気乗りがしなくなった。私には、何ものもつねに知られない、知られそうもないようにおもわれた。長いあいだ私の注意を引きつけてきたことがみな、急につまらなくなった。おそらく私たちが若い時にいちばん陥りやすい一片の気まぐれから、私はさっそくこれまでの勉強を放棄した。そして、博物学やそのすべての子孫を畸形の出来そこなった子と見なし、真の知識の足もとにも寄りつけないえせ[#「えせ」に傍点]科学に対して、すこぶる軽侮の念を抱いた。こんな気もちで私は、しっかりした基礎に立っていていかにも私の考慮に値する数学とその数字に関係する研究の諸部門に、手を着けた。
 こんなふうにして、へんなぐあいに私たちの魂は組み立てられ、こういうほんのちょっとした絆《きずな》に引かれて私たちは、繁栄か破滅かに向って出発しようとしているのだ。背後をふりかえってみると、性向や意志のこのほとんど奇蹟的な変化が、あたかも私の生命を護る天使が直接に示唆してくれたものであるかのような気がするのであるが、最後の努力は、そのときでさえ運命の星のなかで催して今にも私を包みそうな風雨を避けようとする、保身の精神によってなされたものだ。それが勝利を占めたことは、魂の異常な静けさや嬉しさからみてわかったが、これは私が、あの古くさい、ひとをすっかり悩
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