、海をよこぎって行ってしまった。その人たちの推測によると、そいつはたちまち氷が裂けて死ぬか、永劫の寒さで凍死したにちがいないというのであった。
 この情報を耳にして、私は一時、激しい絶望に襲われた。やっは逃げてしまったのだ。こうして、土地の人でも長く堪えられる者のほとんどない、まして温暖で日当りのよい気候に生まれた私にはとても助かりそうもない寒気のなかを、大海の山のような氷をよこぎって、破滅的な、ほとんど際限のない旅を始めなくてはならなかった。けれども、あの悪鬼が生きていて凱歌をあげることを考えると、怒りと復讐の[#「復讐の」は底本では「復譬の」]念がまた戻ってきて、大きな津波のように他のあらゆる感情を押し流すのであった。私は体をすこし休めたが、そのあいだ、死者の霊たちがまわりを飛び舞い、追跡をつづけて復讐するように私をけしかけるので、すぐ旅の支度をした。
 私は、今までの平地用の橇を、起伏の多い氷結した大海にむくように作った橇に変え、食糧をどっさり買いこんで陸地を離れた。
 それ以来どのくらいの日数が経ったか、推側できないが、自分の胸に永久に燃える正当な復讐の感情がなくてはとってい支えきれない苦しさに、私は堪えた。氷の巨大な突兀たる山々が、たびたびゆくてをはばみ、また、今にもおまえは死ぬぞと脅かすような、大海の轟きが、たびたび足もとに聞えてきた。しかし、厳寒がまたやってきて、安全な海の道を作ってくれた。
 自分の食べた食糧の量から見て、私はこの旅で三週間ほど過ごしたものと判断され、またまた、いつになったら望みがはたされるものやら、はてしがないような気がして、失意と悲しみのにがい涙をこぼした。私は、まさに絶望の餌食になって、この不幸のために今にも斃れそうだった。信じられないような辛苦に堪えて私を運んでいたかわいそうな動物たちが、ひとたび、傾斜する氷の山のてっぺんに達してから、一匹が疲れのために倒れて死んでしまったので、私は苦悶を湛えて眼の前の広漠たるひろがりを眺めたが、そのときとつぜん、私の眼は、薄暗い平原のかなたに、ひとつの黒点を捉えた。いったい何だろうかと目を凝らしてよく見ると、一台の橇と、夢にも忘れない畸形の姿が見わけられたので、私はむちゅうで、荒々しい叫び声をあげた。おお! どんな噴炎となって私の胸に望みがふたたび訪れたことだろう! 暖かな涙が眼に溢れたので
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