怖の表情を浮べていたが、私には、他人の恐怖などは、ただのまねごと、つまり自分にのしかかる感情の影法師でしかないようにおもわれた。私はこの人々から逃れて、つい先ほどまで生きていた、大事な、かけがえのない、恋人でありまた妻であるエリザベートの死体の置いてある部屋へ行った。最初に見たときと姿勢が変って、こんどは、頭が腕を枕にするように置かれ、顔と頸にハンカチが掛けてあって、眠っているかとおもわれるようであった。私は馳け寄って、むちゅうで抱きついたが、死んで手足にもう動かず、冷たくなってしまっているので、いま腕に抱いているのは、自分が熱愛したあのエリザベートではなくなっていることがわかった。あの畜生の絞め殺した痕が頸についており、肩から息が出なくなっているのだった。
私がまだ絶望的に悶えて死体の上にかがんでいるあいだに私は、ふと眼を上げた。部屋の窓はそれまで暗かったが、月の薄黄色の光が室内を照らしているのを見て、一種の恐慌を感じたのだ。鎧戸が押しあけられ、開いた窓のところに、見るも恐ろしい嫌なものの姿を、名状しがたい恐怖感をもって私は見た。怪物は歯をむき出して笑い、残忍な指で妻の屍を指さして嘲弄しているように見えた。私は窓に馳け寄り拳銃《ピストル》を胸にあてて発射したが、怪物は身をかわし、居たところから跳び下り、電光のような速さで走っていって、湖水に跳びこんだ。
拳銃《ピストル》の音を聞いて、人がたくさん部屋にやって来た。やつが見えなくなった地点を指さすと、みんなボートに乗って追跡し、網を打ったりしたが、何にもならなかった。数時間経ってから、私たちは、失望して帰って来たが、いっしょに行った人たちは、たいてい、私か空想ででっちあげた姿だと思いこんだ。舟から上ると、こんどは陸の上を探すことになり、組みに分れて森や葡萄園のあいだを八方に散っていった。
私もいっしょに行こうとして、宿屋からちょっと離れた所まで行ったが、目が廻って、歩きぶりも酔いどれのようになり、とうとう、へとへとに疲れきって、眼に薄皮をかぶり、皮膚が熱病の熱で焼けるような気がした。こんなありさまで私は伴れもどされ、寝台に寝かされたが、どんなことが起ったのかわからず、何か失ったものを探すように、部屋を見まわすのだった。
しばらくしてから私は起きあかつて、本能にみちびかれたように、愛する者の死骸のよこたわってい
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