済したいと熱心に考えてはいたものの、殺人者の苦悩とみじめなうわごとのそばに居たくはなかったのだ。だから、カーウィン氏は、おりおり、私がなおざりになっていやしないかどうかを見に来たが、来るとすぐ帰ったし、来るのも、ごく稀れであった。
 ある日、私がおいおいに恢復してきたころ、私は、眼がなかげ開き、頬が死人のように蒼ざめたままで、椅子にかけていた。私はたびたび、陰欝と不幸にひしがれ、自分にとって悲惨なことばかりの世の中に生きながらえることを望むよりは、いっそ死んだほうがよい、と考えた。一時は、自分はきのどくなジュスチーヌに比べると罪がなくはないのだから[#「ないのだから」は底本では「ないのかだら」]、有罪だと名のり、法の裁きを受けるべきかどうかということも考えた。こんなことを思っていると、看房の扉が開いてカーウィン氏が入って来た。氏は、顔に同情と憐憫を表わし、私のそばの椅子を引き寄せて、フランス語で話しかけた、――
「こういう所が君に打撃を与えやしないかとおもって心配でね。何かもっと気もちよくしてあげられることがありませんか。」
「ありがとうございます。しかし、おっしゃってくださることは、僕には無意味なのです。地上にはどこにも、僕の受けられる慰めはないのですから。」
「見知らぬ人の同情が、君のように妙な不運にひしがれた者にとって、ちっとも助けにならないことは、わたしも知っています。けれども君は、まもなくこの憂欝な住まいから出ることになりそうですよ。犯罪の嫌疑から解放されるような証拠が、きっと、たやすく出てきますからね。」
「そんなことはちっとも考えていません。奇妙な事の成りゆきで、僕は人間のうちでいちばんみじめな者になりました。僕のように悩み苦しめられる者にとっては、死ぬことなんか禍ではありませんよ。」
「最近起ったこのふしぎな出来事ほど、めぐりあわせがわるくて人を苦しめたことは、たしかにどこにもありませんよ。あなたは、何か意外な事で、親切で有名なこの海岸に投げ出されてさっそくつかまえられ、そして殺人罪で告発されたのです。最初にごらんになったのは、わけのわからぬやりかたで殺され、いわば悪鬼のようなものの手であなたの通るところに置かれた、あなたの友人の死体でしたよ。」
 カーウィン氏がこんなことを言ったので、そのために自分の苫悩を思いかえして興奮したにもかかわらず、また私
前へ 次へ
全197ページ中154ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング