だがただわたしのように醜い者を要求するだけのことです。その満足はささやかなものだが、わたしが受けることのできるのはそれだけのものですから、それに甘んじます。それはなるほど、全世界から切り離された怪物どもではあるでしょうが、そのためになおさらおたがいに愛着を感じるでしょうよ。二人の生活は幸福ではないでしょうが、それは害にはならないもので、いま感じているみじめさからはのがれられるでしょう。おお! わたしを造ったあんたにお願いする、わたしをしあわせにしてください。一つだけ恩恵を施して、わたしに感謝の気もちを向けさせてください。誰か人間から同情してもらえるということを、わたしにわからせてください。この要求を斥けないてください!」
 私に心を動かされた。自分が同意したことから起りうる結果か考えると身慄いしたが、怪物の言うことにも一理はあると感じた。その話や、いま表わした感情は、こまやかな気もちをもった者であることを証拠立てたし、また造った者としてできるだけ幸福の分けまえを与えてやる義務があるのではなかろうか。私の気もちが変ったのを見て、怪物は話をつづけた、――
「もしも同意していただけるとしたら、あんたをはじめほかの人間にも二度とお目にかからないようにして、南アメリカの広漠とした荒地にでも行きます。食べものが人間の食べものじゃありませんから、腹が空いたからといって仔羊や仔山羊を殺したりしないで、どんぐりや苺のようなもので十分に栄養が取れるのです。わたしの伴れあいもわたしと同質だとしたら、同じ食事で満足するはずです。わたしらは乾いた木の葉で寝床をつくるでしょうし、人間に照らすと同じように太陽が照らし、わたしらの食料をみのらすでしょう。お話しているこんな情景は、平和な人間らしいもので、あんだだって、みだりに残虐な暴力をふるってでもないかぎりは、否定することができないと感じるにちがいありません。あんたはわたしに対して無情でしたが、いまあなたの眼には同情の念があらわれています。この好意をもった時にわたしを理解して、わたしが熱烈に望んでいることをしてくれると約束してください。」
「人間の住む所から退散して、野獣だけが仲間になるような荒地に住もう、というのだね。人間の愛情や同情を熱望するおまえが、こんな追放を辛抱できるとおもうのかね。戻って来てまた人間の親切を求め、人間に忌み嫌われるのだ
前へ 次へ
全197ページ中124ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宍戸 儀一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング