弟殺しだと考えていたので、私はどうしてもその真否を探り出したかった。はじめて私は、造られたものに対する造りぬしの義務が何であるかを感じ、こいつを非難する前に、まず幸福にしてやらなけれはならないという気になった。こういう動機から私は、こいつの要求に応ずることにしたのだ。そこで私たちは、氷原をよこぎり、むこう側の岩に登った。空気はつめたく、雨がまた降りはじめたので、私たちは小屋に入った。鬼めは意気揚々とした様子で、私は重たい心と欝々とした精神を抱いて。しかし、私が話を聞くことに同意したので、私の憎むべき相棒は、自分の起した火のそばに私を坐らせ、つぎのような身の上ばなしを始めた。


     11[#「11」は縦中横] 物置小屋での寝起き


「わたしというものがこの世に現われたそもそも初めのころのことは、なかなか思い出しにくいね。どうもあのころの出来事はみな、ごっちゃになって、どれがどれだかわからないのだ。わたしは、いろいろの妙な感覚に捉えられて、同時に見て、感じて、匂いを嗅いだ。自分のさまざまの感覚のはたらきを区別できるまでには、まったく長くかかった。今でもおぼえているが、そのうちにだんだんと、強い光が神経に当るので、眼をつぶらなければならなかった。すると、暗くなってまごついたが、そのことを感じるか感じないうちに、今ならわかりきったことだが、光がまた射してきた。私は歩き、それからたしか下へ降りたが、やがて自分の感覚に大きな変化のあったのがわかった。以前には、触っても見ても感じのない、暗い、不透明なものが、わたしのまわりにあったわけだが、今度は打ち克つことも避けることもできないような障害がなくなって、自由に歩きまわれるのがわかったのだ。光はますます蒸し暑くなり、歩いているうちに暑さに参って、日蔭になっている所を探した。それにインゴルシュタット附近の森で、そこでわたしは、小川のほとりに横になって疲れを休めたが、そのうちにとうとう、腹がすき、喉が乾いて苦しくなった。すると、それが、冬眠に近い状態からわたしを呼びさましたので、木に下ったり地面に落ちたりしていた何かの木の実を見つけては食べた。喉の乾きは小川で満たし、それから横になって眠りこけた。
「眼がさめた時は暗くて、寒さもおぼえたので、いかにもひとりぼっちなのを感じて、いわば本能的に、かなりおびえた。あんたのアパートメン
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