与え、命令し、指揮する。」なぜかというに、それは人間の意志の働きを根源とする事実を対象とするからであり、また人間の意志は少くともある点までは聡明で自由な力であって、人の意志に忠告を与え、ある行動を命じこれを指導することが出来るからである。科学は「観察し、解明し、説明する。」なぜなら、科学は自然の力の働きを原因とする事実を対象とするからであり、自然の力は盲目で如何《いかん》ともなし難いから、これに対してはこれらの効果を観察し、解明し説明するほか何事をもなし得ないからである。
 一八 かようにして私は、コックランのように経験的にではなく、人間の意志の聡明と自由との考察から、科学と政策との区別を理論的に見出した。今は政策と道徳との区別を見出すことが問題である。だが人間の意志の聡明と自由とを考察しまたは少くともこの事実の一つの結果を考察すれば、社会的事実を二つの範疇に分つ原理を得ることが出来よう。
 人間の意志が聡明であり自由である事実によって、宇宙のすべての存在は、人格と物との二大種類に分れる。自らを識《し》らないもの、自らを抑制しないすべてのものは物である。自らを識り自らを抑制する者は人
前へ 次へ
全572ページ中76ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ワルラス マリー・エスプリ・レオン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング