本では「需用供給の法則」]と称せられる法則の科学的形式が得られる。この法則は最も根本的な法則でありながら、今日まで、無意味なまたは誤った表現しか与えられていなかった。ある人は「物の価格は需要供給の比によって決定せられる」といって、特に価格の成立のみを見ている。またある人は「物の価格は需要に正比例して変化し、供給に反比例して変化する」といって、むしろ価格の変動を見ている。だが、実は一つのものに過ぎない所のこれらの二つの表現に、何らかの意味を与えようとすれば、まず需要と供給との定義を与えねばならない。ところで供給を定義して有効供給の意味としても、また所有量または存在量としても、また需要を定義して有効需要の意味としても、または外延利用としても強度利用としても、あるいはまた外延と強度の双方を含む利用としても、あるいは可能的利用としても、比という語を商(quotient)という数学的意味に解すれば、価格が需要の供給に対する比でもなければ、また供給の需要に対する比でもないことは明らかであり、また価格が需要に正比例し供給に反比例して変化もせねば、供給に正比例し需要に反比例して変化もしないことは明らかである。故に経済学の根本法則は、今日まで、単に証明せられなかったのみでなく、また正しく認識せられず、方式化せられなかったと、いっても過言ではない。なお附言しておきたいが、ここに問題となった法則またはこれを構成する二つの法則を証明するには、有効需要と有効供給とを定義し、有効需要と有効供給とが価格に対してもつ関係を研究し、稀少性の定義を下し、稀少性と価格との関係をも研究することが必要である。そしてこれらのことは、数学的用語と方法と原理に頼ることなくしては、為し得られるものではない。そこで結局、数学的形式は純粋経済学に対して単に可能な形式に止まるのではない、必要にして欠くべからざる形式である。なお、このことについては、ここまで私に追随してきた読者は少しの疑をも挟まないであろうと、私は思う。

[#ここから1字下げ、折り返して3字下げ]
註一 相対的で客観的な交換価値と絶対的で主観的な稀少性との区別は、交換価値と使用価値との区別をそのまま正確に表わしている。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

    第十四章 等価値配分の定理。価値測定の手段と交換の仲介物とについて

[#ここから8字下げ]
要目 一三九 交換者間の商品の分配の変化。所有量の等価値の条件。総存在量の同一の条件。一四〇 極大満足の条件に合致する部分的需要または供給。一四一 各交換者の需要量と供給量は常に等価値である。一四二 全ての商品の総需要と総供給は常に等しい。一四三 この場合所有量の等価値と総量の等量という二つの条件により市場価格は変化しない。一四四 二つの条件の必要。一四五 価値尺度財、単位、単位の変化。一四六 価格の合理的な表現、通俗の表現、通俗の表現の二重の誤謬。(1)単位の価値は固定かつ不変の価値ではない。(2)単位の価値なるものは存在しない。一四七 単位は一定量の尺度財の価値ではなく、この量そのものである。一四八 貨幣。一四九、一五〇 貨幣を媒介とする富の交換。
[#ここで字下げ終わり]

 一三九 商品(A)、(B)、(C)、(D)……が(1)、(2)、(3)……の交換者によってそれぞれ qa,1[#「a,1」は下付き小文字], qb,1[#「b,1」は下付き小文字], qc,1[#「c,1」は下付き小文字], qd,1[#「d,1」は下付き小文字] …… qa,2[#「a,2」は下付き小文字], qb,2[#「b,2」は下付き小文字], qc,2[#「c,2」は下付き小文字], qd,2[#「d,2」は下付き小文字] …… qa,3[#「a,3」は下付き小文字], qb,3[#「b,3」は下付き小文字], qc,3[#「c,3」は下付き小文字], qd,3[#「d,3」は下付き小文字] ……ずつ所有せられているとすれば、これらの商品のそれぞれの合計は次の如くである。
[#ここから4字下げ]
Qa[#「a」は下付き小文字]=qa,1[#「a,1」は下付き小文字]+qa,2[#「a,2」は下付き小文字]+qa,3[#「a,3」は下付き小文字]+ ……
Qb[#「b」は下付き小文字]=qb,1[#「b,1」は下付き小文字]+qb,2[#「b,2」は下付き小文字]+qb,3[#「b,3」は下付き小文字]+ ……
Qc[#「c」は下付き小文字]=qc,1[#「c,1」は下付き小文字]+qc,2[#「c,2」は下付き小文字]+qc,3[#「c,3」は下付き小文字]+ ……
Qd[#「d」は下付き小文字]=qd,1[#「d,1」は下付き小文字]+qd,2[#「d,2」は下付き
前へ 次へ
全143ページ中90ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ワルラス マリー・エスプリ・レオン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング