xを賞讃し、または共産主義を拒否したと想像すれば、道徳科学と応用科学との間に矛盾があることになる。この矛盾は可能であるか。この矛盾が現れたとしたら、いかになすべきであろうか。
 我々はこの問題に遭遇するのであるが、私はこの問題に、それがもつべき地位を与えたいと思う。これは特にプルードンとバスチアとの間に、一八四八年の頃、道徳と経済学の関係について行われた論争の問題であった。プルードンは「経済的矛盾」において、正義と利益との間に矛盾があると主張し、バスチアは「経済的調和」において反対の説を主張した。私は二人が共にその証明を完全に果したとは考えない。そして私はバスチアの説を採るが、しかしバスチアとは異る方法によってこれを弁じたいと思う。とにかく、問題が存在するとしたら、これを解決せねばならない。全く異る道徳科学である所有権の理論と、応用科学である産業の理論とを混同して、この問題を隠蔽《いんぺい》してはならない。
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  第二編 二商品間に行われる交換の理論
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    第五章 市場と競争とについて。二商品間に行われる交換の問題

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要目 四〇 社会的富は価値がありかつ交換し得られる物のすべてである。四一 交換価値は互にある割合の分量で受けまたは与えられる物がもつ性質である。市場は交換が行われる場所である。競争の機構の分析。四二、四三 証券市場。有効な需要と供給。供給と需要の均等、静止的な流通価格。需要が供給に超過すれば騰貴する。供給が需要に超過すれば下落する。四四 商品A及びB。方程式 mva[#「a」は下付き小文字]=nvb[#「b」は下付き小文字]. 価格 pa[#「a」は下付き小文字] 及び pb[#「b」は下付き小文字]. 四五 有効な需要と供給、Da[#「a」は下付き小文字], Oa[#「a」は下付き小文字], Db[#「b」は下付き小文字], Ob[#「b」は下付き小文字]. 定理 Ob[#「b」は下付き小文字]=Da[#「a」は下付き小文字]pa[#「a」は下付き小文字], Oa[#「a」は下付き小文字]=Db[#「b」は下付き小文字]pb[#「b」は下付き小文字]. 需要が主要な事実であり、供給は附随的な事実である。四六 定理 [#式(fig45210_004.png)入る]. 四七 供給と需要の均等すなわち均衡の仮説。四八 供給と需要の不均等の仮説。価格の騰貴または下落は需要を減少、または増加せしめる。供給については如何《いかん》。
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 四〇 第二一節になした基礎的一般的考察の中で、私は、社会的富を、稀少な物すなわち利用があると同時に量において限られた有形または無形の物の総体であると定義し、かつ稀少な物はすべて、そしてこれらのみが価値があり、交換せられ得ることを証明した。それとは別にここでは、社会的富を価値があって交換せられ得る有形無形の物の総体であると定義し、かつ価値があって交換せられるすべての物が、そしてそれらのみが利用があると同時に量において限られている物であることを証明しよう。先の定義では、私は原因から結果に赴いているわけであり、今与えた定義では、結果から原因に遡っているわけである。だが稀少性と交換価値との二つの事実の関係を明らかにすることが出来るならば、これらのいずれの行き方をしようと、自由であるのはいうまでもない。ただ私は、交換価値のような一般的事実の組織的研究にあっては、性質の研究が起源の研究に先立たねばならぬと考えるのみである。
 四一 交換価値[#「交換価値」に傍点]はある物がもつ性質であり、無償で獲得せられることも無償で譲渡されることもなくして売り買いせられる性質、すなわち他の物を与えまたは受けるのにある割合の分量で受けまたは与えられる性質である。一つの物の売手は、それと交換に受ける物の買手である。一つの物の買手は、それと交換に与える物の売手である。他の言葉でいえば、二つの物の相互の交換はすべて二つの売りと買いとから成り立つ。
 価値があって交換せられる物は、また商品[#「商品」に傍点](marchandises)と呼ばれる。市場は商品が交換せられる場所である。故に交換価値という現象は市場に生れるのであって、交換価値の研究は市場においてなされねばならぬ。
 自由に放任せられる限り、交換価値は自由競争の支配を受けている市場において自然に発生する。交換をなす者は、買手としては互により高く需要しようとし、売手としては互により安く供給しようとする。これらの競り合いから、あるいは上向の、あるいは下向の、あるいは静止する商品の交換価値が生れる。この競争が充分に働くか否かによって、交換価値は、あるいは正確に、あるいは不正確に現われる。競争の点
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