傍点]はうつむいて川原の砂を弄《いぢ》くつて居るばかりで親猿の所へ行かうとはしないのです。与兵衛はポロ/\涙を流しながら、
「左様なら、チヨン[#「チヨン」に傍点]よ、私《わし》は最《も》う帰るから、早くお父さんの所へお出で、兄さんや姉さん達もあの岩の上に居るぢやないか、左様なら……」と云つて浅瀬の中へ入らうとしますと、チヨン[#「チヨン」に傍点]は周章《あわ》てゝ与兵衛の肩に這上つて、其《そ》の襟《えり》の所にピツタリ頭《かしら》を押しつけてゐるのです。丁度《ちやうど》母猿が射殺《うちころ》された時、其の乳房《ちぶさ》に縋つてゐた時のやうに。
「よし/\、お前は俺《おれ》を恋しいのか、では伴《つ》れて帰つてやる! 死ぬまで大事に/\飼つてやらう。そして死んだら、お前のおツ母アと一緒の墓に葬つてやるぞ!」
与兵衛はかう言ひ乍《なが》ら川を渡りました。そして、大きな声で川向ふの猿に対つて、
「皆さん左様なら!」と云ひました。けれども猿共は不思議さうな顔でヂロ/\とチヨン[#「チヨン」に傍点]と与兵衛とを見て居るばかりでした。
底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「赤い猫」金の星社
1923(大正12)年3月
初出:「金の船」キンノツク社
1920(大正9)年1〜2月
入力:tatsuki
校正:田中敬三
2007年2月21日作成
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