つたか、あたらなかつたかが、すぐに知られたからでありました。
与兵衛はすぐ新しく弾丸《たま》を込めて樹《き》の上を見ました。もう其時は皆な五疋十疋の猿が幹を伝つて一生懸命に跳び降りて、いづくとも知れず逃げてしまつた後でした。
「はてな、今の弾丸《たま》は確かにあたつた筈《はず》だが……」と独語《ひとりごと》を言ひながら与兵衛は樫の大木に近づきました。すると大きな猿が一疋、右の手で技を掴《つか》んで、ぶらりとぶら下つてゐました。与兵衛はすぐ鉄砲に弾丸《たま》を込めてその猿の右の手をうつたのでした。所が猿は、ばたりと下へ落ちて来ましたが、今度は左の手でまた別の枝を握つて、ぶらりとぶら下りました。
与兵衛は少し気味悪く思ひましたが、勇気を出して三発目に頭の後《うしろ》の方を射ち抜いたので、ドスン! と音がして、与兵衛の立つてゐた二間ばかり上の方へ、大きな親猿が血に塗《まみ》れて落ちて来たのでした。
与兵衛は早速|駈《か》け上《あが》つて行つてその親猿の手をソツと掴んで下へ三尺ばかり引摺《ひきず》りますと、山の上の方から土瓶《どびん》のまはり程の大きな石が、ゴロ/\と転つて来ました。
与兵衛は驚いて飛び退《の》きながら見ますと、鉄砲の音に驚いて山の中へ逃げ込んで居た親猿小猿が出て来て、与兵衛に其《そ》の射殺《うちころ》された猿の死骸《しがい》を渡すまいと思つて、石を転がしたのでした。それと知るや与兵衛は、腰に結んで居た細引で、射取《うちと》つた猿を確《しか》と縛つて川岸の方へ引摺り下しました。
すると山の中から五疋も十疋も、親猿小猿が、キヤーツ! キヤーツ! と叫びながらその死骸を奪ひ返さうとして、追かけて来るのでした。
与兵衛は顔色を変へて一生懸命に川岸へ走り降りましたが、その猿を縛つた繩《なは》は、堅く右の手に握つてゐました。
与兵衛が転びながら川岸へ辷《すべ》り降りた時、丁度《ちやうど》川上から筏が流れて来ましたので、早速|其《その》筏に飛乗りました。そして親猿の死骸も、筏の上に載せたのです。
筏を流して来た筏師は驚き呆《あき》れてこの有様を見てゐましたが、早い流れでしたから瞬く間に筏は五六十間も下の方へ流れてしまひました。川岸の岩の上で、親猿小猿はギヤアギヤア言つて下の方を眺めて居ました。
与兵衛は筏の上にドツカと坐《すわ》つて、まづ川の水を一口が
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