かづらをきつて、それを、わにして木のえだに、ひつかけました。そして、そのわに、くびをひつかけて、ぶら下らうとしましたが、藤六さんは、またかんがへました。
「まてよ。こんなかづらに、くびをひつかけたなら、きつと、くびのかはが、すりむける。さうすると、くすりを、つけなければならない。くすりをつけると、くすりだいがいるから、びんばふが、いつそう、びんばふになる。」
 そこで、藤六さんは藤かづらのわを、木のえだに、ひつかけておいたまま、おうちにかへりました。
 そのあくる日でした。藤六さんは、いつものやうに、お魚をうりに行つて、もう、半分ほど売つたころでした。これから、山の向ふまで、こえて行かうと思つて、かごをかついで、坂をのぼつてゐますと、上から、一人の西洋人がおりて来ます。ごとごとと、自てん車をおして、石ころみちを、あるいてゐます。
 えいごを知らない藤六さんは、何といつていいか、わかりませんから、だまつて、みちをよけてゐますと、西洋人の方から、こゑをかけました。
「魚屋さん、すみませんが、わたしのあとへ、一人のびやう人が来ますから、この五十銭を、上げて下さい。わたし、少し急ぎますから……さやうなら。」
 西洋人は、五十銭銀貨を、藤六さんの、手のひらに、のせておいて、さつさと、坂をおりてしまつたのでした。
 藤六さんは、西洋人の見えなくなつた時、につこり笑ひました。
「うまいうまい。五十銭ぎんくわが、ふいに、天からふつてきたやうなものだ。これは、おれが毎日毎日、正ぢきにして、いつしよけんめいに、はたらいてゐるから、神さまが、あんな西洋人に、ばけてきて、おれにこの五十銭ぎんくわを下すつたんだ。ありがたい、これで、明日の朝は、一円五十銭のお魚が買へる。さうすると、七十五銭はまうかる。ありがたい、ありがたい。」
 藤六さんは、その五十銭ぎんくわを、さいふの中に入れて、坂をのぼりました。


    三
 源八《げんぱち》さんは、くわんづめ会社の、しよく工でした。手早くつて、よくはたらくので、毎日、三円から四円の、お金をもらひます。けれども、源八さんには、二つのわるいくせがあります。それはさけをのむことと、さけをのむと、よつぱらつて、けんくわを、することとです。
 町の会社で、三年ほど、はたらいてゐましたが、まうけたお金は、すつかりおさけを買つて、のんでしまひました。その上、時
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