岩を小くする
沖野岩三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)後村上《ごむらかみ》天皇さまの
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後村上《ごむらかみ》天皇さまの皇子さまに、寛成《ひろなり》さまと申すお方がございました。
まだ、ごく御幼少の時、皇子さまは、多勢の家来たちと、御一しよに、吉野川の上流、なつみの川岸へ、鷹狩《たかがり》を御覧においでになりました。
川岸には、大きな岩があつて、その上に、松の木が一本、枝ぶり美しく、生えてゐました。
寛成の皇子さまは、それが大へん、お気に入つたとみえ、おそばにゐた、中将《ちゆうじやう》河野実為《かうのさねため》に、
「帰るとき、あの岩と松とを、御所のお庭へ、持つて行つて下さい。陛下に献上したいから。」と、仰せになりました。
岩といつても、大きな岩で、どれだけの重さだか、わかりません。けれども、まだお小い、皇子さまのことですから、鷹狩を、御覧になつてゐるうちに、その岩のことは、お忘れになられるだらう、と、思ひましたので、中将は、
「よろしうございます、帰りには、きつと、持つてまゐりませう。」と、善《い》い加減なお返事をいたしておきました。
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