庭に出て、
「見ろ。今に、こつちの鬼瓦は、火を吹くぞ。さうすると、東山の鬼瓦も、今度こそ、閉口して角を折るにきまつてる。」と、いつて、屋根の上を見てゐました。
五時五分前になりました。ごん七さんの、家《うち》の庭には、家内も職人も、みんな出て来て、
「今に見ろ。こつちの鬼瓦は、火をふくぞ。そしたら西山の鬼瓦は閉口して、二つに破れて落ちるぞ。」と、云つてゐました。
五時一分前になりました。もう、たまらなくなつて、東山の方では、
「今に見ろ。」と、どなりました。そのこゑを聞いた、西山の方でも、
「今に見ろ。」と、どなり返しました。
五時になりました。両方の鬼瓦は、一度に、しゆう、しゆうと、すさまじく火を吹きはじめました。ごん七さんも、ごん八さんも、首をかしげて、かんがへました。
京一さんと今雄さんとは、あくる日、また学校の裏庭の、桜の木の下で、ひそひそと話しては、笑つてゐました。すると、にはかに、ごう、ごう、と、地の下が、鳴りはじめました。
「京一さん、地震だよ。」と、今雄さんが言つた時、たて物が、がたがたと、動きました。二人は、ひしと、だき合つて、桜の木の下に、立つてゐますと、どこかで、どうん、がらがらと、大へんなひびきが、いたしました。
「あ、うちの鬼瓦が、屋根から、おつこちたのだ。」
二人は同時に、叫びました。そして、門のところへ、走つて行つてみますと、おほぜいの生徒が、そこに立つてゐて、
「東山の鬼瓦…… 西山の鬼瓦……」と、言つて、さわいでゐました。
東山の鬼瓦は、まつさかさまに、泉水の中におちたので、角が、めちやめちやに折れて、頭が八つに、われてしまひました。
西山の鬼瓦は、庭石の上に落つこちて、顔のまん中に、ぽつこりと、大きな穴があいて、眼《め》も鼻も口も、無くなりました。
ごん七さんは、めちやめちやにわれた、鬼瓦を拾ひあつめながら、
「下らない競争をして、かんじんのしごとを、一月も休んだ。もう、こんな下らない競争はよしませう。」と、言ひました。
ごん八さんは、顔のまん中に大穴の開いた、鬼瓦をながめながら、
「下らない争をして、註文《ちゆうもん》の瓦をやく事を、すつかり忘れてしまつた。もう、こんな下らない競争は、よしませう。」と、言ひました。
ごん七さんところの四階は、三階になりました。
ごん八さんところの四階は、二階になりまし
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