の身の破綻であるやうに思はれて窃に其処分を考究した。おいよさんは時々朝から臥せることがある。私は心配になるからだらうと思つてそつと枕元に行つて見るとおいよさんは其一塊肉のために私に訴へるのであつた。さうしてかうなるのもあなたが悪いのだと私を責めることもあつた。けれどもおいよさんの臥せつて居ることは例の加減が悪いからだらうと人は思つて居るのだからそんな疑を抱かれることはないと私は思つて居た。私はそれとはなしにそこらで懐胎した女の思ひ切つた身の処分法を聞いた。其度毎に私はおいよさんに告げて其ぢつと目を据ゑて身にしみた聞きやうをするのを見た。一ケ月はまた経過した。けれどもおいよさんの体は常態には復さなかつた。其内に田舎の正月が近づいて来た。おいよさんは正月になつたら母の郷里へ行つて来たいといつた。おいよさんは或日人の居らぬ処で私に銭をくれといつた。それは小遣としては少し多過ぎた請求であつたが、衣服一枚拵へたいのだといふのを聞いてそれにしては余りに少ないのではないかと思つた。私はせがまれては快くはなかつた。然し物蔭に立つてぢつとおいよさんの目を見る時は変な心持になつて畢ふので私は此の請求もすぐに容れたのであつた。おいよさんは近いといつても河を渡つて行かなければならぬ或町へ反物を買ひに行つ[#底本では「っ」]た。私はおいよさんが行くことに就いて苦心した。さうして口実を授けた。私にもずるい考が起るのであつた。おいよさんの妹で看護婦に成つて居るのがあつてそれが遠くへ行つて居る。其妹から数日前に封状が届いて居る。それで其中に封じてあつた為替を取りに行くのだと私の母へはいつて行けとかう教へたのであつた。おいよさんの反物は柄は絣であつたが翳せば先が見え透くやうな安物であつた。おいよさんは仕立を近所の少しは針仕事の出来る女へ頼んだ。これが二人の間を疑はしめる材料を提供したのであつた。おいよさんには冬衣のさつぱりしたものは一枚もなかつた。有繋によごれた着物で郷里へ行くことを羞ぢたのであつた。おいよさんは正月の上旬に霜の解けないうちといつて未明に人力車で出て行つた。おいよさんが行つてからも私はひどく不安の念に駆られて居た。おいよさんは出て行く前に私の腹は私がどうにかします、私も知つて居ますからといふのであつた。どうする積かと私は聞いて見たら、知合の女に窃に処分をしたものがある。其女の家へ客に
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