しい女を相手に笄のやうな形の丸い杵を持つて小さな臼で白い粉を搗いて居たのである。余は草鞋を解きながらそれはどうするのかと聞くと明日は盆だから佛へ供へる團子にするので米をうるかして置いて搗くのだと其の笄のやうな形の杵を交る/\に打ちおろして居た。其杵の音が聞えるのである。余は座敷へ案内されてからもうるかすといふことが解釋に苦んだ。丁度針仕事をして居る娘は閾一つ隔てたのみであるから娘に聞いて見たらそれは水へ浸しておくといふことなのであつた。顏をあげた所を見ると娘はどことなくぼんやりと冴えないものゝやうである。然し其時はさう思つたまで[#「まで」は底本では「まて」]ゞ別に氣にも止めなかつた。其内に今日は塩竈行の汽船は來ないといふ知せがあつた。殘念だがこゝへどうでも泊らなければならぬことに成つてしまつた。余は鉛筆と手帳とをいぢつて見たが退屈したので新聞を貸してくれといつたら娘は仙臺の河北新報といふのを二三日分持つて來てくれた。それが如何にもはき/\としない態度である。碌に見る所もない新聞だからぢきに不用になつた。それから荷物を枕にして横になつて見た。先刻から茶碗でも茶菓子でも一杯になつて甞めず
前へ
次へ
全18ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング