うねり/\行く、提灯の導く儘に唯足許に心を配りながら二丁ばかりも來たと思ふと、坂垂れになつた大きな往來へ出た、この間の降りつゞきなのでよく/\のぬかるみである、坂を下りて四五軒ばかりならんだ家のところを出拔けると、闇いは闇いがひろ/″\として來た、道は一際ひどい泥濘で、はじの方の漸く下駄だけ位に人の踏んだ足跡を探つては行くのである、道の脇はぢき溝になつてあるので、一歩誤れば墜ち相である、提灯二つがたよりで辿つて行つたがとう/\動きのとれないぬかるみへ出つくはした、叔父と自分とは思ひ切つて跣足になつた、從弟はうらのちやんが抱いて越えた、これから先はもつとひどいだらうといひながら行くと案外ぬかるみも少ないので馬鹿な目に逢つて仕舞つたと大笑ひをしながら、それからは急ぎ足に進んだ、四五丁もきたと思ふ頃利根川の渡しのところへついた、汪洋たる水は淀んで居るかと思ふ程に靜かである、藁葺の船頭小屋は薄明りがさして居るが話聲も聞えない、叔父と自分とは提げて來た下駄を置いて足を洗つて居るうちに、うしろのちやんの提灯は遙に川下の方へ行つた、やがて自分等もあとを追つて土手の上を歩いて行く、末枯の蓼の穗や背丈に
前へ 次へ
全13ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング