《ひとり》が卯平《うへい》に向《むか》つていつた。
「さうすりやはあ、お互《たげえ》にえゝ鹽梅《あんべえ》で疵《きず》もつかねえんだから、俺《お》れもさうは思《おも》つちや居《ゐ》んだが、此《こ》れ、いふのもをかしなもんで」卯平《うへい》の頬《ほゝ》には稍《やゝ》紅《べに》を潮《さ》して彼《かれ》は婆《ばあ》さんにいはれたことが嬉《うれ》し相《さう》に見《み》えるのであつた。
「なあに、さうだもかうだも有《あ》るもんか、えゝから、さうだ奴等《やつら》打《ぶ》つ飛《と》ばしてやれ」暫《しばら》く默《だま》つて居《ゐ》た先刻《さつき》の爺《ぢい》さんは小柄《こがら》な身體《からだ》を堅《かた》めて又《また》呶鳴《どな》つた。
「うむ、なあに俺《お》れもそれから去年《きよねん》の秋《あき》は火箸《ひばし》で打《ぶ》つ飛《と》ばしてやつたな」卯平《うへい》は斯《か》ういつて彼《かれ》にしては著《いちじ》るしく元氣《げんき》を恢復《くわいふく》して居《ゐ》た。
「さうだとも、錢《ぜね》でも何《なん》でも呉《く》んなけりや、よこせつちばえゝんだ、錢《ぜね》ねえなんちへば米《こめ》でも麥《むぎ》でも奪取《ふんだく》つてやれ」爺《ぢい》さんは周圍《あたり》へ唾《つば》を飛《と》ばした。
「それでも俺《お》れ打《ぶ》つ飛《と》ばしてから質《しち》の流《なが》れだなんち味噌《みそ》一|樽《たる》買《か》つたな、麩味噌《ふすまみそ》で佳味《うま》かねえが今《いま》ぢやそんでもお汁《つけ》は吸《す》へるこた吸《す》へんのよ」卯平《うへい》は自分《じぶん》の手柄《てがら》でも語《かた》るやうないひ方《かた》であつた。
「食料《くひもの》措《を》しがるなんち業《ごふ》つくばりもねえもんぢやねえか、本當《ほんたう》に罰《ばち》つたかりだから、俺《お》らだら生《い》かしちや置《お》かねえ、いや全《まつた》くだよ、親《おや》のげ食《か》あせんの惜《をし》いなんち野郎《やらう》は突《つ》つ刺《ぷ》したつて申《まを》し開《ひら》き立《た》つとも、俺《お》らだら立派《りつぱ》に立《た》てゝ見《み》せらな、卯平《うへい》確乎《しつかり》しろ、俺《お》らだら勘次等《かんじら》位《ぐれえ》なゝ又《また》うんち目《め》に逢《あ》あせらな、いや本當《ほんたう》に俺《お》れに掛《かゝ》つちや酷《ひで》えかんなこんで」
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