い》て目《め》を閉《と》ぢた。
 冬至《とうじ》はもう間《あひだ》が二日しか無《な》くなつた。朝《あさ》の内《うち》に勘次《かんじ》は蒟蒻《こんにやく》の葢《ふた》をとつて見《み》て
「どうしたもんだかな、俺《おれ》でも擔《かつ》いて歩《ある》つてんべかな、恁《かう》して置《お》いたんぢや仕《し》やうねえかんな」お品《しな》へ相談《さうだん》して見《み》た。
「さうよな、それよりか俺《お》らどつちかつちつたら大根《だいこ》でも漬《つけ》て貰《もれ》へてえな、毎日《まいんち》栗《くり》の木《き》見《み》て居《ゐ》て干過《ほしす》ぎやしめえかと思《おも》つて心配《しんぺえ》してんだからよ」お品《しな》は訴《うつた》へるやうにいつてさうして更《さら》に
「自分《じぶん》で丈夫《ぢやうぶ》でせえありや疾《とつ》くにやつちまつたんだが」と小聲《こごゑ》でいつた。お品《しな》はどうも勘次《かんじ》を出《だ》すのが厭《いや》であつた。然《しか》し何《なん》だかさう明白地《あからさま》にもいはれないので恁《か》ういつたのであつた。
「勘次《かんじ》さん鹽《しほ》見《み》てくんねえか、俺《お》ら大丈夫《だえぢよぶ》有《あ》ると思《おも》つてたつけがなよ、それからこつちの桶《をけ》の糠《ぬか》がえゝんだよ、そつちのがにや房州砂《ばうしうずな》交《まじ》つてんだから」お品《しな》はいつた。
「おうい」勘次《かんじ》はいつて、
「房州砂《ばうしうずな》でも何《なん》でも構《かま》あめえ、どうで糠《ぬか》喰《く》ふんぢやあんめえし、それにこつちなちつと凝結《こご》つてら」
「勘次《かんじ》さんそんでも入《せ》えんなよ、毒《どく》だつちんだから、俺《おれ》折角《せつかく》別《べつ》にしてたんだから」お品《しな》は少《すこ》し身《み》を起《おこ》し掛《か》けていつた。
「さうかそんぢやさうすべよ」それから鹽《しほ》を改《あらた》めて見《み》て
「どうして此《こ》れだけ使《つか》へ切《き》れるもんけえ」と勘次《かんじ》はいつた。お品《しな》は勘次《かんじ》が梯子《はしご》を掛《か》けて一《ひと》つ/\に大根《だいこ》を外《はず》すのも小糠《こぬか》を筵《むしろ》へ量《はか》るのも白《しろ》い鹽《しほ》を小糠《こぬか》へ交《ま》ぜるのも滿足氣《まんぞくげ》に見《み》て居《ゐ》た。
 お品《しな》は勘
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