》運《はこ》んだ勘次《かんじ》の手《て》がむづとおつぎの首筋《くびすぢ》を捉《とら》へた。彼《かれ》は同時《どうじ》におつぎの小鬢《こびん》を横《よこ》に打《う》つた。おつぎが慌《あわ》てゝ後《うしろ》を向《む》かうとする時《とき》、復《ふたゝ》び劇《はげ》しく打《う》つた手《て》がおつぎの鼻《はな》に當《あた》つた。おつぎは兩手《りやうて》で鼻《はな》を抑《おさ》へて縮《ちゞ》まつた。女同士《をんなどうし》は樅《もみ》の木陰《こかげ》に身《み》を峙《そば》めて手《て》の出《だ》し樣《やう》もなかつた。
一《ひと》つには平生《ふだん》からおつぎに對《たい》する勘次《かんじ》の態度《たいど》を知《し》つて居《ゐ》て其處《そこ》に一|種《しゆ》の恐怖《きようふ》を感《かん》じて居《ゐ》たからでもあつた。
「どうして汝《わ》りや、櫛《くし》なんぞ取《と》らつたんだ」勘次《かんじ》はからびた喉《のど》から絞《しぼ》り出《だ》す樣《やう》な聲《こゑ》で詰問《きつもん》した。
「こうれ、此《この》阿魔奴《あまめ》、しらばくれやがつて、どうしたんだよ」勘次《かんじ》は屈《かゞ》んだ儘《まゝ》のおつぎをぐいと突《つ》いた。おつぎは轉《ころ》がり相《さう》にして漸《やうや》く土《つち》へ手《て》を突《つ》いた。
「何《なに》爲《す》んだな、おとつゝあ」おつぎは慌《あわ》てゝ顏《かほ》を捩《ね》ぢ向《む》けて少《すこ》し泣《な》き聲《ごゑ》で寧《むし》ろ鋭《するど》くいつた。
「何《なに》爲《す》んだとう、づう/\しい阿魔《あま》だ、櫛《くし》何故《どう》して取《と》らつたんだか云《ゆ》つて見《み》ろつちんだ、此《こ》んでも分《わか》んねえのか、云《ゆ》つて見《み》ろよ」勘次《かんじ》は暫《しばら》く間《あひだ》を措《お》いて、又《また》かつと忌々敷《いま/\しく》なつたやうに
「云《ゆ》つて見《み》ろつちのに、云《ゆ》つて見《み》ろよ」と反覆《くりかへ》しておつぎを責《せ》めた。
「どうしてつちつたつて、俺《お》らがにや分《わか》んねえよ」おつぎは恨《うら》めし相《さう》に然《しか》しながら周圍《しうゐ》に憚《はゞか》る樣《やう》にして小聲《こごゑ》でいつた。袂《たもと》は顏《かほ》を掩《おほ》うた儘《まゝ》である。
「分《わか》んねえとう、何《なん》にも知《し》らねえ者《もの》で
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