であるのを見《み》た。平常《いつも》ならそんなことはないのだが自分《じぶん》が酷《ひど》くぞく/\として心持《こゝろもち》が惡《わる》いのでつい氣《き》になつて
「おつう、そんな姿《なり》で汝《わり》や寒《さむ》かねえか」と聞《き》いた。それから手拭《てぬぐひ》の下《した》から見《み》えるおつぎのあどけない顏《かほ》を凝然《ぢつ》と見《み》た。
「寒《さむ》かあんめえな」おつぎは事《こと》もなげにいつた。與吉《よきち》は懷《ふところ》の中《なか》で頻《しき》りにせがんで居《ゐ》る。お品《しな》は平常《いつも》のやうでなく何《なに》も買《か》つて來《こ》なかつたので、ふと困《こま》つた。
「おつう、そこらに砂糖《さたう》はなかつたつけゝえ」お品《しな》はいつた。おつぎは默《だま》つて草履《ざうり》を脱棄《ぬぎす》てゝ座敷《ざしき》へ駈《か》けあがつて、戸棚《とだな》から小《ちひ》さな古《ふる》い新聞紙《しんぶんし》の袋《ふくろ》を探《さが》し出《だ》して、自分《じぶん》の手《て》の平《ひら》へ少《すこ》し砂糖《さたう》をつまみ出《だ》して
「そら/\」といひながら、手《て》を出《だ》して待《ま》つて居《ゐ》る與吉《よきち》へ遺《や》つた。おつぎは砂糖《さたう》の附《つ》いた自分《じぶん》の手《て》を嘗《な》めた。與吉《よきち》は其《その》砂糖《さたう》をお袋《ふくろ》の懷《ふところ》へこぼしながら危《あぶ》な相《さう》につまんでは口《くち》へ入《い》れる。砂糖《さたう》が竭《つ》きた時《とき》與吉《よきち》は其《その》べとついた手《て》をお袋《ふくろ》の口《くち》のあたりへ出《だ》した。お品《しな》は與吉《よきち》の兩手《りやうて》を攫《つかま》へて舐《ねぶ》つてやつた。お品《しな》は鍋《なべ》の蓋《ふた》をとつて麁朶《そだ》の焔《ほのほ》を翳《かざ》しながら
「こりや芋《いも》か何《なん》でえ」と聞《き》いた。
「うむ、少《すこ》し芋《いも》足《た》して暖《あつた》め返《けえ》したんだ」
「おまんまは冷《つめ》たかねえけ」
「それから雜炊《おぢや》でも拵《こせ》えべと思《おも》つてたのよ」
お品《しな》は熱《あつ》い物《もの》なら身體《からだ》が暖《あたゝ》まるだらうと思《おも》ひながら、自分《じぶん》は酷《ひど》く懶《ものう》いので何《なん》でもおつぎにさせて居
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