りありく聲さへ寒く雨はふりいでぬ

朝まだき車ながらにぬれて行く菜は皆白き莖さむく見ゆ

     四

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大正三年六月八日、山崎をすぎて雨おほいに到る
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天霧《あまぎ》らふ吹田《すゐだ》茨木雨しぶき津の國遠く暮れにけるかも

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九日、三たび播州を過ぐ
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播磨野は朝すがしき淺霧の松の上なる白鷺の城

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同二年四月十五日夕、空には朝來の雨なごりもなく、汽車はこゝろよく伯耆の海岸に添ふて走る
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そがひには伯耆嶺白く晴れたればはらゝに泛ける隱岐の國見ゆ

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十七日、出雲の杵築にいたり大社に賽す、其の本殿の構造、簡易にして素朴なれどもしかもこれを仰ぐに、彼の大國主の天の瓊矛を杖いて草昧の民の上に君臨せる俤を只今目前にみるのおもひあり
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久方の天が下には言絶えて嘆きたふとび誰かあふがざらむ

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十九日、よべはおそく香住といふところにやどりて、應擧の大作をみむとつとめて大乘寺を訪ふ
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菜の花をそびらに立てる低山は櫟がしたに雪はだらなり



底本:「長塚節名作選 三」春陽堂書店
   1987(昭和62)年8月20日発行
入力:町野修三
校正:浜野智
1999年5月19日公開
2009年8月20日修正
青空文庫作成ファイル:
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