おもしろき天つ霧かも束の間に山の尾ぬれを大和田にせり

秋草のにほへる野邊をみなそこと天つ狹霧はおり沈めたり

榛原は天つ狹霧の奥を深み和田つみそこに我はかづけり

うべしこそ海とも海と湛へ來る天つ霧には今日逢ひにけり

うつそみを掩ひしづもる霧の中に何の鳥ぞも聲立てゝ鳴く

しましくも狹霧なる間は遠長き世にある如く思ほゆるかも

ひさかたの天の沈霧《しづきり》おりしかば心も疎し遠ぞける如

常に見る草といへども霧ながら目に入るものは皆珍しき

はり原の狹霧は雨にあらなくに衣はいたくぬれにけるかも

おぼゝしく掩へる霧の怪しかも我があたり邊は明かに見ゆ

相馬嶺は己《おのれ》吐きしかば天つ霧おり居へだゝりふたゝびも見ず

    秋雜詠

葉※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]頭の八尺のあけの燃ゆる時庭の夕はいや大なり

久方の天を一樹に仰ぎ見る銀杏の實ぬらし秋雨ぞふる

秋雨のいたくしふれば水の上に玉うきみだり見つゝともしも

こほろぎのこもれる穴は雨ふらば落葉の戸もてとざせるらしき

鬼怒川は空をうつせば二ざまに秋の空見つゝ渡りけるかも

鬼怒川を夜ふけてわたす水棹の遠
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