たむ腕を抱かひて臥すかあはれ諸越の野に

ますらをや痛手すべなみ黍の幹《から》を敷寢の床も去りがてにあらむ

もろこしは霜の降りきと聞きしかば痛手の惱みまして偲ばゆ

籠り居る黍の小床にこほろぎの夜すがら鳴かばいかにかも聞く

をのこやも務めつくせり垂乳根の母ます國へはや歸るべし

活けるもの死にするいくさ然にあるをいきてかへるに何か恨まむ

垂乳根の母がます國もとつ國うまし八洲はまさきくて見よ

那珂川に網曳く人の目も離《か》れず鮭を待つ如君待つ我は

かへりくとはやも來ぬかもうましらに秋の茄子はいまだみのれり

秋はいまは馬は肥ゆとふ故郷の縣の芋も肥えにたらずや

我が郷の秋告げやらむ女郎花下葉はかれぬ花もしをれぬ

ありつゝも見せまく欲しき蕎麥の花しぼまばつぎてをしね刈る見む

やすらかに胡麻の殼うつひな人に交りて居れば君をこそ思へ

待つ久に遇ふべくあるは青菜引く冬にかあらむいまかあふべき

かへらはゞ我郷訪ひこ見にまかれ足がまたけば手は萎《な》えぬとも[#ここから割り注](明治三十七年九月上旬作)[#ここで割り注終わり]
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 明治三十八年

    十月短歌會
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