るらめ

としのはに子うみおもなみすべなけば盥の尻を手もて叩かせ

東國《あづま》にはしかぞ尻打つ盥打つ然かする時は子をうむは遠し

はた/\と盥打つ時めぐし子はたらひ/\と足らひたるべし([#ここから割り注]明治四十年十月二十八日[#ここで割り注終わり])

    暮春の歌

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五月のはじめ雨の日にあひてたま/\興を催してよめる
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さびしらに母と二人し見る庭の雨に向伏す山吹の花

山吹の花の黄染をそこらくに洗ひ落して雨ぞしき降る

もろ/\の庭の梢は雨注ぎうち搖るゝまで其葉茂れり

水つけばほとぶるものと木のうれも雨しふれゝばいやふくよかに

雨ふりて淋しき庭も※[#「耒+婁」、第4水準2−85−9]斗菜の一簇故に足らずしもなし

あらかじめ持てりし雨を悉く土にかへして春は行くめり

菜の花の乏しきみれば春はまだかそけく土にのこりてありけり

すが/\し樫がわか葉に天響き聲ひゞかせて鳴く蛙かも

車前草《おほばこ》の花がさかむとうれしとて蛙は雨にきほひてや鳴く

蛙らは皆塗り込めの畦越えて遠田こち田と鳴きめぐるらし

やはらかに茂き林が梢よりほがら/\と春は去ぬらむ

    手紙の歌
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明治四十年八月、岡麓氏予が請を容れて或事のために奔走せらる。しばらくしてその事の成就すべきよし報じこされたれば手紙をかくとて其はしに
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我が植ゑし庭の葉鷄頭くれなゐのかそけく見えて未だ染めずも

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九月にいりて消息なし。心もとなければ書きておくる
[#ここで字下げ終わり]

天の川あめを流れて、限りなく遠くしあれど、桐の木の梢に近し、其川の近く見えつゝ、遠くして音なきが如、我が待てるたより聞えず、夜に日に待てども。

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はじめ事もし成らば我が鬼怒川の鮭をおくらんと約しけるを、十月に入りて鮭の季節も末にならむとするに其事の空しからむとするを憂へて月の十九日手紙のかはりに書きておくりける
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青笹に包みて鮭はおくらむとことしはやらず欲しといふとも

鬼怒川の鮭を欲りすといふ人はいふべき時は未だ來らず

白銀の鮭を小笹に包まひてやるべくあらば豈憂へむや

鬼怒川を晝は淀に居夜されば幾瀬の網も鮭は越すといふ

いさゝかのこと
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