り]

濱荻の網干す磯ゆ遠くみるあられ松原人麥を打つ

濱荻の磯過ぎくれば麥づくり鎌には刈らず根こじ手に曳く

[#ここから6字下げ]
和田附近
[#ここで字下げ終わり]

あたゝかき安房の外浦は麥刈ると枇杷もいろづくなべてはやけむ

[#ここから6字下げ]
卅一日、まだきに七浦のやどりを立つ
[#ここで字下げ終わり]

人參の花さく濱の七浦をまだきに來れば小雨そぼふる

すひかづら垣根に淋し七浦のまだきの雨に獨り來ぬれば

[#ここから6字下げ]
野島が崎に至る、巨巖のすき間/\に只さら/\と波のよせ返すのみ、干潮なれば常はえ至るまじき巖のもとをも窺ふ
[#ここで字下げ終わり]

おもひこし濤は見なくに異草を野島が崎の巖の間に摘む

白濱の野島が崎の松蔭に芝生に交るみやこぐさの花

巨巖のうへ偃ふ松の静けきに雀が來鳴き雨霽れわたる

濱萬年青しげれる磯をさし出の野島が崎は見えのよろしも

[#ここから6字下げ]
根本濱遠望
[#ここで字下げ終わり]

伊豆の海や見ゆる新島三宅島大島嶺は雲居棚引く

[#ここから6字下げ]
布良
[#ここで字下げ終わり]

布良《めら》の濱かち布刈る女が水を出で妻木何焚く菜種殼焚く

[#ここから6字下げ]
館山灣
[#ここで字下げ終わり]

萍の菱の白花々々と小波立てり海平らかに

[#ここから6字下げ]
六月一日、館山灣の北を扼する大房の岬に遊ぶ
[#ここで字下げ終わり]

かさご釣る磯もしづけみ頬白の鳴くが淋しきこれの遠崎

おもしろき岬の松の繩繋ぎ犢の牛に草飼ふところ

[#ここから6字下げ]
二日、孝子塚を見る、孝子は名を伴家主といふ、父母の歿後その像を刻みて之に仕ふること生けるが如く終身渝ることなし、朝廷嘉賞して租税を免ず、事は仁明天皇の承和年間に係る、爾來一千年此郷の士人碑を國分寺に建てゝ之を頌す、近年復た萱野の地に建碑の擧あり、刻むに菊池容齋描く所の伴家主の像を以てせり。
[#ここで字下げ終わり]

茅花さく川のつゝみに繩繋ぐ牛飼人に聞きて來にけり

いにしへもいまも同じく安房人の誇りにすべき伴家主《あたへぬし》これ

伴家主おやを懷ひし眞心は世の人おもふ盡くる時なく

うらなごむ入江の磯を打ち出でゝおやにまつると鯛も釣りけむ

父母のよはひも過ぎて白髪の肩につくまで戀ひにけらしも

麥つくる安房のかや野の松蔭に鼠麹
前へ 次へ
全42ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング